在宅肺炎


先日、93歳の在宅患者が肺炎で亡くなった。在宅酸素療法を受けていた寝たきりの患者であり低栄養状態が長年続いていた。この場合の低栄養状態とは低アルブミン血症を指すのだが血清アルブミン2.8mg/dl~3.0mg/dlであった。BNP値から心不全が、アンモニア値やトランスアミナーゼからは肝不全も否定的であったが、訪問入浴から二日後に突然の発熱と著名低酸素血症を示した。

低酸素があり白血球増多、CRP上昇から肺炎と診断したが日頃、経鼻カニュラで0.75L投与しSpO2 95%前後を維持していたが、発熱後SpO2が80%までに低下した。とりあえず酸素を3Lに上げたがSpO2不変、さらに5Lに上げたがSpO2は80%内外でありレボフロキサシン500mgを経口投与したものの5日後に死亡した。

訪問入浴というのは、その場でお湯を沸かすのではなく、あらかじめ沸かしたお湯をクルマのタンクに入れて運び込むらしい。どのようなシステムになっているのか不明だがタンクやホース、湯沸かし装置などの消毒や殺菌はどのように行われているのだろう。その昔、24時間循環風呂でレジオネラ肺炎が流行ったことがあった。

レジオネラは蒸気で感染する。医者なら誰もが知っている在郷軍人病である。三重県感染症センターの文章を拝借すると・・・・

レジオネラ症ってどんな病気?

 レジオネラ症には肺炎をおこす場合(レジオネラ肺炎(在郷軍人病))と、肺炎をおこさず一過性の発熱ですむ場合(ポンティアック熱)があります。レジオネラ属菌には多くの種類があり、なかでもレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)による肺炎が最も多くみられます。健常者も罹患しますが、乳幼児、高齢者など抵抗力の弱い人、喫煙者、大酒家に罹患しやすく、病気の進行が早いため、急激に重症になり、死亡することもあります。

 この病気は、1976年に米国フィラデルフィア市のホテルで開かれた在郷軍人(The Legion)の集会において重症肺炎患者が集団発生したことによって知られるようになりました。原因は、細菌が冷却塔水で増殖し、空調機からエアロゾルとなって周囲に飛散していたためとされ、この事例にちなんで、病名は在郷軍人病(Legionnaires' disease)、原因細菌はLegionellaと呼ばれるようになりました。

 レジオネラ属菌は河川や湿った土壌など自然環境中に生息する細菌ですが、循環式浴槽水、冷却塔水、給湯器の水などでよく増殖します。特に、入浴施設の浴槽や配管の内壁などには「ぬめり(生物膜)」ができやすく、その内部で増殖した細菌は通常使用する塩素剤等の殺菌剤で除去することができず細菌の温床となってしまいます。また、このような人工温水中にはアメーバなどの原生動物が多数生息していますが、レジオネラ属菌にはアメーバの細胞の中で大量に増殖する性質があり、集団感染が多発する一原因となっています。 

今回、肺炎で亡くなった患者の特徴は急激な低酸素である。いわゆるARDS「急性呼吸窮迫症候群」と呼ばれる状態に陥り亡くなった。普通の肺炎というのは区域性肺炎である。肺は右肺3葉、左2葉に肺は区域されている。通常の肺炎は区域1葉で発症する。それは哺乳類が肺炎で容易に死なないように獲得した構造だから、通常の肺炎では急激な低酸素にはなりくいし、酸素の投与もしくは酸素の増量で代償すなわち改善する。ところが今回のケースでは酸素の増量にも反応しなかった。

ARDSでなければ喘息の重積発作か心不全による肺胞性肺水腫、もしくは重症型の間質性肺炎ぐらいしか思いつかない。ただ、この患者の場合、3年前の在宅医療開始時に低酸素があり酸素投与を行っていた経緯もあるがO2 0.25~0.5LでSpO2 94~97%を維持していたので、それほど重篤な印象はなかった。発熱の翌日に訪問し、喘息を想定しステロイドと肺水腫を想定しフロセミドを皮下注した。同時にレボフロキサシンを500mg内服させたが一度も改善することなく死亡した。

レジオネラ肺炎の第一選択はニューキノロン系抗菌剤の点滴だということで経口投与から点滴に変更したが死亡した。たとえば白血球増多、CRP高度上昇を示すのは細菌感染症であるが、このような劇症型の間質性肺炎の起因菌はなんであったのかは今、現在のところ見当もつかない。ただ訪問入浴を行っていた在宅酸素療法中の患者が、入浴二日後に劇症肺炎(ARDS)で死亡した。個人的にはレジオネラが原因だと考えるが、いかがなものか。

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この頃、介護に参入する業者の中には医療とかけ離れた業種の人間も少なくない。また、そこで働いている人間も医学的な知識のない人間も少なくない。と、いうかほぼ素人である。滅菌、殺菌、消毒、あるいは医学的清潔や不潔を習っているのか疑問だ。そのため、在宅酸素療法を受けている当クリニックの在宅患者が訪問入浴を希望したが、一応そのリスクを説明した。介護業者を信用しない訳ではないが、リスクはリスクだ。