ステロイド糖尿病について

まず「スーパー糖質制限」で有名な京都高雄病院の江部先生のブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」より一部転載します。

・・・・・・・

「ステロイド糖尿病について、まず簡単に整理してみましょう。 副腎皮質ホルモンを一定以上の量、長期にわたり投与することにより、糖尿病・耐糖能異常をきたすことがあります。 文献によると、副腎皮質ホルモンの長期投与で糖尿病状態となる頻度は約8%です。 副腎皮質ホルモンの分泌過剰症であるクッシング症候群という病気がありますが、約80%に軽い耐糖能異常が認められます。 ステロイド(糖質コルチコイド)の作用として ①肝臓の糖新生亢進作用、 ②骨格筋などのインスリン抵抗性の亢進 ③高グルカゴン血症 ④食欲増進作用 があります。これらの作用により耐糖能が低下すると考えられます。 例えば、コルチゾールという副腎皮質ホルモン投与後、2~3時間で血糖値が上昇し始め、約5~8時間でピークとなります。 ステロイド投与により糖尿病を発症する場合ですが、現実にはもともと糖尿病の素因があった人が発症することが多いです。 まあ、この場合は、ステロイド糖尿病というよりは、2型糖尿病の発症にステロイド投与が他の環境因子などと共に一つのきっかけとなったということですね。 厳密な意味でのステロイド糖尿病は、外部からのステロイド投与がなくなれば、糖尿病が消失することが定義となります。」

・・・・・・

まず一番、重要なのはステロイドの投与後グルカゴンの分泌が亢進して、その作用で糖新生が増大し血糖値が上昇するということだ。使用するステロイドの量(もしくは期間)にもよるが肥満(インスリン抵抗性)やIGT(境界型糖尿病)さらに家族歴(糖尿病素因)を有する患者の場合、ステロイド糖尿病を発症する。

恐らく、ステロイド使用当初から血糖値は上昇するはずだが、とりわけHba1cは遅れて上昇する(当たり前のことだが)。まず血糖値が上昇すればインスリンが分泌され高血糖を回避するよう反応する。

以前から何回も述べているが、高血糖モードの後はインスリン過剰による低血糖モードだ。すなわちインスリンが過大に分泌されると数時間後、低血糖モードに至る可能性がある。単純糖質摂取後でも食後高血糖と遅れて低血糖がやってくる。

この事実は胃摘出後のダウンピング症候群でも同様だ。すなわち食後高血糖、インスリン過剰分泌による低血糖が訪れる。低血糖は自覚がない場合がほとんどだが(なぜならグルカゴン分泌が亢進して糖新生が増加するから)、まれに低血糖による冷感や震えが出現する。

プレドニンなどは基本的にはコルチゾールの生理的分泌に合わせるよう朝を中心に服用する場合が多いと思われるが、朝・夕の二回服用でも6~8時間後に血糖値はピーク(高血糖)を迎え10~12時間後には低血糖モードに陥るはずだ。

もしステロイド糖尿病にSU剤を用いれば10~12時間後に訪れる低血糖モードは、さらに悪化すると推測される。なぜなら、さらにインスリン分泌は亢進して高血糖は回避されるが、インスリン過剰による低血糖が悪化する。

もしこのような場合、一般的には糖新生を抑制するという薬理作用を考えればメトホルミンが有効であるが、実際には即効性を有するSGLT-2阻害剤が極めて有用であると考える。

すなわちステロイド糖尿病はグルカゴン分泌による高血糖状態に由来する糖尿病であるが、瞬時にこれを回避するためにはSGLT-2阻害剤が有益であると考える。

さらに薬理的にSGLT-2阻害剤は速やかに過剰なブドウ糖を尿中に移行させる。すなわち過剰なインスリン分泌を惹起しないと想像される。それは10~12時間後に訪れる低血糖モードを回避させ得るということである。

なぜ低血糖モードを回避する必要があるのかというと、それはリンパ球減少や、それが長期に渡った場合の低γグロブリン血症や低IgG血症を防ぐ目的である。低血糖モードに曝される時間が長いと、最終的に骨髄への悪影響が出ると考えられるからだ。

当クリニックで低γグロブリン血症や低IgG血症を示す20名ほどの患者を調べたところ糖尿病治療中の患者、アルコール多飲者、ステロイドホルモン使用中の患者、ダウンピング症候群の患者であった。彼らの共通点はただ一つ、すなわち低血糖モードの存在である。

いずれにせよ日中は飲食をすることが多いので低血糖モードが続くことは稀であるが、夜間は飲食ができないため長時間、低血糖モードに曝される。低血糖モードが長時間続くと骨髄のBリンパ球系の芽球が抑制されると考える。(最初にTリンパ球系が抑制されるのかもしれないが)

これまでのデータではIgGが600mg/dl以下になることはないようだが、正常値を下回るのは感染症などを考えた場合に極めて問題だと考える。それゆえステロイド糖尿病ならびにステロイド糖尿病に続発する低γグロブリン血症を回避するためには早期のSGLT-2阻害剤の使用が極めて有用であると考えるに至った。