減量耐性のメカニズム

ヒトのエネルギー代謝は、おおむね基礎代謝と筋肉運動量で決まる。基礎代謝とは寝ていても生命維持に必要な最低限のエネルギー(心臓や内臓運動に必要なエネルギー)である。筋肉運動が激しいければ消費エネルギーは増す。だからスポーツマンや肉体労働者は過大なエネルギーが必要になる。逆に自宅でデスクワーク主体の人や寝たきりに近い人たちは基礎代謝が最大のエネルギー消費になる。

 

例えば家からほとんど外に出ず、運動もしない人であればエネルギー代謝はほぼ基礎代謝であると言えよう。自動車で通勤をする事務職ならこれに準ずる。仮にその人の基礎代謝1,500㎉とするなら1日の消費エネルギーは、おおよそ1,500㎉と考えて間違いないはずである。であるなら1日の摂取エネルギーを1,000㎉に抑えるならそれでも2週間で1㎏減るが、いずれはダイエット耐性に至る。

 

何を言いたいかというと「基礎代謝は変動」する。ヒトにかぎらず生命維持のために動物すべて「基礎代謝は容易に変動する」ということなのである。基礎代謝というのはエネルギー消費量の大小にかかわらず変動するのである。その基礎代謝を規定するのが甲状腺ホルモンであり、副腎髄質ホルモンであり、褐色脂肪細胞なのである。これを理解できないと真の減量は不可能であると断言する。

 

エネルギー発現のメカニズムは筋肉運動を除くと褐色脂肪細胞が担当している。褐色脂肪細胞は頚部や胸背部に分布している脂肪細胞で、脂肪を貯めるだけの白色脂肪細胞と異なり発熱すなわち脂肪燃焼を担当する脂肪細胞である。この褐色脂肪細胞の多い少ないが太りにくい痩せやすいを決めている。肥満遺伝子もしくは痩せ遺伝子はこの褐色脂肪細胞の数で規定されるといっても過言ではない。

 

褐色脂肪細胞は副腎髄質のカテコラミンであるノルアドレナリンにより制御されている。交感神経系のうちβ1受容体は主に心臓に、β2受容体は気管支や子宮平滑筋に、β3受容体は膀胱括約筋や脂肪細胞に分布されているとされ褐色脂肪細胞はノルアドレナリンの量により脂肪を燃焼させたり、あるいは燃焼を中止したりしている。

 

その副腎髄質のカテコラミン分泌を調整しているのが甲状腺ホルモンなのだ。甲状腺ホルモンの過剰分泌があると褐色脂肪細胞のエネルギー燃焼は亢進し、逆に甲状腺ホルモンの分泌減少があるとエネルギー消費は減少する。バセドウ病では体重減少方向に、橋本病では肥満、脂肪蓄積方向にふれる。

長期にわたる減量を続けると体重が減りにくくなるのは周知であり、これを減量耐性と呼ぶ。これはカロリー制限と糖質制限による減量を考えた場合、前者の方が、減量耐性ができにくい。なぜならカロリー制限では糖質摂取が可能である点が糖質制限と異なるからである。すなわちエネルギー代謝の系では糖質が極めて大事な役割を果たすからである。

 

野生のライオンは生肉しか食べない。しかしペットとして飼われている犬や猫の餌には多くの糖質が含まれる(例…猫まんま)。人間もまた米や小麦など多くの糖質を摂取して生命活動を行っている。ペットの犬や猫、人間もすべてブドウ糖をガソリンとしてエネルギー活動を行っているのだ。

 

ライオンは糖質摂取ほぼゼロだが、やはりブドウ糖を利用してエネルギー活動をおこなっている。ライオンなどの野生動物は生肉(脂質やタンパク質)を摂取して、それらを材料に糖新生を行い、エネルギー活動を行い、そして生命を維持している。これは極北地帯に住む先住民のイヌイットやエスキモーも同様であると考える(今はパンやパスタも食べていますが)。

 

エネルギー代謝とは、これすなわち糖質代謝なのである。もし極端に糖質を制限した場合、甲状腺は副腎髄質のカテコラミン分泌にストップをかける。その結果、褐色脂肪細胞はエネルギー燃焼を抑える。カロリー制限ダイエットでは糖質を利用し、熱量の高い脂質を制限するから減量耐性はできにくい。

 

ダイエット耐性の高い人の栄養マーカーを見てみるとHbA1cは低いが、タンパク質、アルブミン、中性脂肪、コレステロールの値は決して低くない。逆に糖質制限をしているが故に肉食傾向が高いためアルブミン、中性脂肪、コレステロールの値は正常を維持している。タンパク質、脂質を多く摂取してもエネルギー代謝は改善しないのである。

 

タニタ式ダイエットは糖質摂取をゼロにせず適当に糖質を摂取するから甲状腺ホルモン分泌が維持できる。そのためダイエット耐性ができにくい。しかし糖質制限ダイエットでは、減量は早いが糖質が不足するため甲状腺ホルモンの分泌が減少し減量耐性ができやすいと説明できる。

 

 

追記

当外来に80歳を超えて90㎏近くある軽度糖尿病の女性がいる。親兄弟も相当太っているという。その患者の甲状腺機能を測定したところ、甲状腺刺激ホルモンは正常下限を示していたのである。つまり甲状腺ホルモンは過大に分泌されているのだが、受け手の副腎髄質での甲状腺ホルモン受容体異常によるカテコラミン分泌不足か、あるいは褐色細胞でのカテコラミン受容体が正常に作用していない状態が存在すると推察されたのである。