ビスフォスネート剤と顎骨壊死の関係

高齢者の骨粗しょう症の治療中にビスフォスネート剤(以下、ビス剤)を使用していると歯科から問い合わせが必ず来る。「顎骨壊死を生ずる可能性があるのでビス剤を中止にしてくれ」との依頼である。患者からも「さして症状のない骨粗しょう症より今、起こっている歯の治療を優先してくれないか」と頼まれる。それはそれで仕方がないが歯科医からはビス剤を使用すると、なぜ顎骨壊死を生じるのか一度も説明がない。

 

例えばビス剤を使用して顎骨壊死を生じた症例の統計や、その分析と解析はなされていないに等しいのではないかと。糖尿病や低アルブミン血症が存在した、しないでも良いし、ビス剤の併用薬剤にビタミンD3剤やカルシウム製剤は使用していたのか等の情報が欲しいのだ。なぜなら米国と日本では骨粗しょう症の治療が大分異なるからである。

 

かつて私が大学病院の関連施設で相当数の腎性骨異栄養症の治療を行った感想が、日本の骨粗しょう症の治療のレシピでは、ほぼ治らないと感じたからである。例えば、日本では骨粗しょう症の治療に炭酸カルシウムは用いられない。日本ではアスパラギン酸カルシウムや乳酸カルシウムを用いるが、これらの薬剤はカルシウム含有量が少ないからだ。1g当たりのカルシウム含有量を分子式から計算すれば容易に理解できる。

 

ざっくりいうと、それぞれのカルシウム含有量は炭酸カルシウム400㎎、酢酸カルシウム250㎎、乳酸カルシウム130㎎、アスパラギン酸カルシウムで93gである。米国ではカルシウム含有量の多い炭酸カルシウムを用いるが、日本では炭酸カルシウムに骨粗しょう症の治療薬としての適応がない。理由は薬剤メーカーに儲けがないからだ。単なる工業材料である。ただ慢性胃炎の適応があったので、かつて慢性胃炎の病名を付けて腎性骨異栄養症の治療に炭酸カルシウムを用いたのだ。

 

かつての腎性骨異栄養症の治療は活性型ビタミンD3剤と炭酸カルシウムを3~6gで行われた。カルシウム量でいうと1日当たり1200㎎~2400㎎のヘビードーズである。ただ救いは腎不全患者の患者ゆえに最初からビタミンDの活性化障害があったし、毎週でも毎回でも血清カルシウム値やアルブミン値を知ることもできたので高カルシウム血症を呈することはなかった。なぜなら腎不全に対する活性型ビタミンD3剤だからだ。

 

日本の骨粗しょう症の治療の現状はどうだろう。整形外科医は骨粗しょう症の治療が出来ない。ビス剤単投与が骨粗しょう症の治療ではないし、ましてビタミンD3剤だけでも無理である。骨形成と骨吸収を理論でしか理解していない、または知らない。そこで問う、整形外科等で、どのような治療がなされている骨粗しょう症の患者が顎骨壊死を生じたのか。

 

当外来でよく見かける整形外科による骨粗しょう症の治療内容だが、大方は活性型ビタミンD3剤単独あるいはビス剤単独の使用である。これでは意味不明で効果なしと考えられる。本来なら医者は誰でも知っていなければならない程度の常識的な知識なのだが、ビタミンDは骨形成を刺激するが骨吸収も刺激するのである。すなわち骨のリモデリングを刺激する薬剤である。骨芽細胞を増やすが破骨細胞も増やす薬剤なのである。したがって低回転型骨粗しょう症が高回転型骨粗しょう症に変化するだけだ。

 

そのため破骨細胞を抑えるべくエストロゲン類似製剤やビス剤を用いて破骨細胞の増加を抑えることにより骨吸収を抑制するのである。ただ肝心なことは同時に骨の材料になるカルシウムなどを十分に供給しなければ骨そしょう症は骨粗しょう症のままで居続ける。日本人の1日当たりのカルシウム摂取量は、その必要量を満たしていない。なので、どうしてもカルシウム剤が必要になる。

 

2013年、プラリアという破骨細胞抑制型の半年に一度注射する骨粗しょう症治療薬が発売された。これは内服で天然型ビタミンD3とカルシウム、マグネシウムの合剤であるデノタスという内服薬と併用することが原則である。従来のビス剤発売時には、そのような決まりもなかったので低カルシウム血症、あるいはそれによるテタニー、さらに無効例もあったのではないかと考える。それゆえ骨粗しょう症治療に無知な整形外科医がビス単独で骨粗しょう症の治療を行った場合にだけ顎骨壊死が出現したのではないか。

 

ビス剤単独だと破骨細胞が抑制され、結果として骨芽細胞も抑制されかねない。せめてビタミンD剤を使用していれば骨芽細胞の促進は担保されるはずなのだが、整形外科医の多くはビス剤単独使用である。骨芽細胞や破骨細胞の変化を確認したければ骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)と酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRACP-5b)を同時に測定すれば良く骨回転を理解できる。

 

顎骨壊死というのは齲歯による歯根へのダメージからの修復過程で骨芽細胞の促進増加が遅延した上に、患部の二次感染や血流不足が重なって壊死に至った状態ではないのか。だから顎骨壊死を生じた症例はビス剤使用の原因だけでなく、低アルブミン血症や糖尿病の要因はなかったか知りたい。欧米の資料をみても国内の資料をみてもビス剤がどのような骨粗しょう症治療薬と併用されていたか、どのような基礎疾患を有する患者が顎骨壊死を生じたのか記していない。

 

もし骨粗しょう症の専門家でも歯科医師でも構わないが顎骨壊死を生じるリスクを単に「ビス剤の使用が原因で…」などと逃げず、きちんと納得する回答が欲しいのである。メーカーの提供する情報は薄い。生理学的な知識に則って説明して欲しいのである。