満腹と空腹

糖尿病治療中の患者は低血糖を生じる際に「お腹が空いてきて、次に冷や汗と手足の震えが出て…」などと良く話をされる。だから血糖値が低下すると空腹を感じるものだと考えていた。しかしライオンは肉食で基本的に糖新生にてエネルギー活動を行っているので血糖値の変動は少ない。ライオンの空腹と満腹は血糖で制御されているのではなく胃の進展反射で満腹と空腹を規定していると考えていた。だから人間の満腹と空腹はライオンと異なり胃の進展反射ではなく血糖値の上下で決まると考えていたのだが、それが間違いだと最近気がついた。

 

糖尿病の患者(というか日本人全般)の食行動は炭水化物中毒的に糖質を摂取するから空腹すなわち低血糖なのではないかと考えるようになった。私見では飲酒などによる血糖低下の際に、ほとんど空腹を感じたことがない。例えば糖質ゼロの蒸留酒を飲みながら刺身、塩焼き鳥、冷奴、葉野菜サラダで糖質をほとんど抜いて夕食を摂っても血糖値の上昇はなく、むしろ低血糖気味であるにもかかわらず満腹になる。糖尿病患者の空腹は、たまたま低血糖に一致するだけに過ぎないのではないかと思うようになった。

 

胃の進展反射とは食物で胃袋が膨れた結果、その信号が脳の満腹中枢に伝わり摂食中止するに至る反射経路を指す。逆に空腹は胃袋の内容物が空になると、その信号が脳に伝わり何か食べたくなるという反射経路である。しかしキャベツの千切りとモヤシのおひたしだけでお腹を膨らませても気持ち満腹にはなるものの満足感が乏しく満腹とは言いかねる。そこで血糖値をあげるべく単純糖質のコーラを飲んで血糖値を上げ、さらにコーラに含まれる炭酸で胃袋に膨満感を付加しても今一つ満腹とはいかない印象なのである。

 

ところが米などの糖質を摂らず、例えば焼肉500gをモヤシやキャベツと一緒に摂取すると、かなり満腹になる。すなわち満腹中枢を刺激するには単純に胃袋を膨らませるだけではダメで摂取した食物の重量が深くかかわっており、満腹になるためには摂取する食物の量もさることながら重さも関与している可能性が高いと考えるに至ったのである。

 

米国で高度肥満者に行われる胃の切除手術は胃袋を小さくすることで満腹中枢への胃の進展反射の信号を少ない食事で可能にする手術である。小さな胃袋はわずかな食事ですぐに満腹になるので減食、さらに減量につながるという実に単純な考えである。個人的には胃の進展反射が満腹・空腹を規定するのなら血糖三角を作らないような低糖質かつ脂質を控えた低カロリー食にして、そのうえ腹八分目に抑えれば胃袋は手術なしでも小さくなると確信する。